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掌を焼くように熱い缶をそれぞれ持って,角を曲がった先にある児童公園に足を踏み入れた。
ブランコに腰を下ろした浦原に,柵に凭れるように寄りかかる一護。
ほんの少しの距離を置いて向かい合って黙って缶のお茶を啜る。
「浦原さん」
「はい?」
「コートの裾,擦ってるぞ」
「あー。ま,いいっスよ」
ちらり,落とした視線をすぐに戻して浦原が笑う。
一護は口をへの字にしたままなんとなく左手をジーンズのポケットにやった。
さっきから柵に触れた尻の部分に変な違和感がある。
何か入れたままにしてたっけ?
そう思って伸ばした手は小さな包みに触れた。
途端,思い出す。
『お守り,やったんだよ。そういうのは身嗜みだからなァ』
にやりと笑った父親の顔。
一護は表情ががち,と凍りつくのを自覚した。
「一護サン?」
怪訝そうな浦原の声にばっと顔を上げると「な,なんでもない!」ぶんぶん首を振る。
どう見ても「なんでもない」ようには見えないその反応に,浦原はゆらりと立ち上がる。
「や,ほんとのほんとになんでもないから!」
一護は柵から身を起こすと,ジーンズのポケットに手をやったままじりじりと後退る。
後退るといってもすぐ後ろに柵があるわけで,その柵沿いにじりじりと左手の方へ…よりによって柵と柵が繋がる角の方へ逃れてしまい,あっという間に行き詰った。
浦原が,近い。
一護はポケットに手をやったまま,露骨に視線を彷徨わせた。
浦原はほんの少し身体を屈めて,わざとらしく視線を合わせてくる。
「いーちご,サン?」
「や…,だから,ほんとに,なんでもないって」
「ポケット何が入ってるの?」
「な,なんにも,入ってねぇ!」
たじたじ,たじたじ。
これじゃあまるで追い詰められた子猫みたいだ。
浦原はくすりと笑う。
その笑顔に,ほっと一護の身体から力が抜けた刹那――。
ふわり,抱き締められていた。
「………ッ!」
腕と身体の間に浦原の腕が入り込む。
身体が仰け反って思わずポケットから手が抜ける。
するり。
指先が,ポケットを探っている。
「わ,わ,だから…!やめ……ッ!!!」
「……なにこれ」
浦原は一護の肩に顎を載せた格好で手にしたそれを摘んできょとんとした声で云った。
「…………」
一護はどっと身体から力が抜けていくのを感じ,ため息を吐いた。
続いて腹の底から萎えたはずの怒りがめらめらと再燃するのを感じた。
ああああああああ。あンのクソオヤジ!!!!
「ち,違うからな!変な意味とかあるわけじゃなくて!」
「それはわかる。いくらなんでも…一護サンの反応見てたら」
笑みを孕んだ声がすぐ傍から聞こえて,一護は情けない気持ちでいっぱいになる。
「それは…その,オヤジが」
「お父さんが?」
「出掛けに玄関とこで捕まって…」
一護は縺れそうになる言葉を継いで事の次第を浦原に説明した。
浦原はしばし無言で聞いていたが,「そういうのは身嗜みだからなァ」のくだりに至るとくつくつと喉を鳴らして,肩を揺らして笑い出した。
「……笑い事じゃねぇよ…。ヒトゴトだと思って」
「あはははは。だって,おっかしくって…」
憮然とした声で云う一護に,ゴメンナサイと云いながらも浦原は笑い止まない。
いつしか一護の声からも強張りが解けてため息を吐くように笑みが漏れた。
「ていうか,浦原さん重い」
「あ…ゴメンナサイね」
浦原の身体が離れて,一護のすぐ横に同じように寄りかかる。
すっかり温くなってしまった缶からウーロン茶を啜り,うー,と小さく唸る。
そんな一護のため息を聞いて,浦原がくすりと笑う。
「でもわかるなァ」
「何が」
「お父さんの気持ち」
「?」
「一護サン可愛いんだもん」
「…可愛いとか云うな。つーか揶揄われる俺の身にもなってくれって」
云いながら一護はやっぱりこのひと俺で遊んでやがんだな…,と苦々しい気持ちになる。
動揺したりどきどきしたりすんのが馬鹿みたいだ。
「揶揄うっていうかね…もっと見ていたくなるんスよ」
「は?」
「一護サンの顔。驚いたり真っ赤になったり怒ったり。アタシみたいのからするとそれは大層眩しいもんで。だからついつい触りたくなる」
「……,それは」
一護は言葉に詰まってしまった。
肯定も否定もなく,なんて云っていいのかわからない。
眩しいって。そんなの,浦原さんの方が,よっぽど――。
けれども,そう口にすることはできなくて,黙ってウーロン茶を啜った。
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連続更新四本目。ストック切れちゃった。。。
(2007.03.09)