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009




イヤだ。このままじゃ…!
頭の中が真っ白になるほど焦ったが,焦れば焦るほど現状を打破する術は見つからない。


どうにもできなくて思わず男を見た。
少し,泣きそうになっていた。
それがまんま表情に出ていたのか,男は目が合うと宥めるように優しく笑った。


「大丈夫」


その暖かい声音に一瞬本気で安心しそうになる。
しかしすぐに頭が警報を鳴らし始め「そんなわけあるか!」と声の残響を蹴り飛ばした。


「大丈夫とか大丈夫じゃないとかじゃなくていいから離せ。とにかく離せ。離してくれって!」
「それは駄目」
「なんで!」


噛み付くように云うと,男は一瞬一護の瞳を覗き込み,それから足元の方へ視線を向けた。


「ほら,アレ」


促されるように視線を向けると,そこにはドアが。
ドアが…半ば壊れた姿でそこにあった。


思い出した。
蹴ったんだ。何度も何度も,頭にきて。
え,もしかしてコイツ,怒ってんの…?


恐る恐る視線を戻すと,男は微笑っていた。
その笑顔のどこにも怒りは見当たらない。
けれども一護はすぅ,と背筋が寒くなるような心地を覚えていた。


「あ…あの,さ」
「ハイ?」
「今から謝ったら許してくれたり,とか」
「許す?別にアタシはなーんにも怒っちゃいませんよぅ?」
「だ,だったらなんで!」
「なんで,スかねぇ。……敢えて云うなら」
「あ,敢えて云うならなんだってんだよ」


たじたじになりながら聞き返した一護を見つめ,男はにっこりと笑う。
しかし眼差しが分厚いレンズに阻まれているせいか,その笑顔は不安ばかりを一護に与えた。


「敢えて云うならそうだなあ…シタイって思ったから?」
「シタ…って,あ,う…ッ」


ウソだろ,そう云いかけた言葉は,再び蠢き始めた指から齎される刺激の前に霧散した。


指先が触れる箇所に身体中から熱が集っていく。
どくどくと脈打つ心臓。


苦しくてもどかしくて神経が焼き切られそうな心地がする。


口から漏れそうになる声を必死に噛み殺していると,目尻に涙が滲んだ。
雫が重力にしたがって伝い落ちる感触。
その擽ったさをどうにもできない焦燥から肩を竦めて激しく首を振った。











(2009.01.31)
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