001
「大体こんなの大音量で流れてて仕事になんのかよ」
「どうして?」
男にあっさりと聞き返され,一護は思わず言葉に詰まった。
しかし男は一護が言葉を濁すのを許さず「ねぇ,どうして?」と答えを促してくる。
「…その,なんつーか…変な気にとかなんねぇのかよ」
「なりませんよー。だってほら,八百屋サンは人参に欲情したりしないでしょ」
「八百屋とアンタじゃちげーだろ」
「そう?でもほら」
男は云いながら手を伸ばして一護の手を掴むと,それをいきなり自分の股間に押し当てた。
「な,なにすんだ!」
「や,気になりませんよーって証拠を」
「証拠って!アホか!」
飛び退るように身体を引いた一護に男は「だって手っ取り早いでしょー?」とあっけらかんな口調で云う。
一護が得体の知れないモノを見るような目で男を見つめると,そんな視線の先,男の口の端がニィ,と引き上げられた。
ぞくり。
思わず皮膚が粟立つ。
嫌な予感。
脳裏に浮かんだ四文字が一護の中でどんどん膨らんでいった。
男と視線が交錯する。
けれども分厚い眼鏡のレンズ越しのせいか男の瞳は曖昧にぼやけ口の端に刻まれた笑みが一護に恐怖感だけを齎す。
一護は自分が何か別のものになったような心地がした。
なんだろうこの感覚。
思考が脳内で反響する。わんわんと鳴り響くような不快感の中,それは不意に閃いた。
――蛇に,睨まれた蛙。
ヤバイ。
そう思ったときは身体が反転していた。
(2009.01.27)