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建物の屋上の黒崎は周囲を警戒しながら避難を担当する兵に状況を尋ねた。
返ってきた答えは全員避難完了したとのこと。
「浦原,避難完了した。あとは工兵に任せろ」
「撤収?」
応じたのは浦原ではなく白崎だった。
「そうだ」
やりとりが聞こえているはずなのに,浦原は応じない。
当たり前だ。ヘッドフォンは投げ捨てられ路上に転がっている。
慎重な手つきでカーラジオをはずす浦原。
軋んだ音がして思わず動きを止めるが,動いたのはワイパーだった。
「…笑わせてくれる」
冷めた声で云って手元に視線を戻す。
「浦原から応答がない」
白崎が車の方見ると,路上に転がっているヘッドフォンが見える。
――あンの,馬鹿。
呟いてマイクに向かい報告する。
「一護,あいつヘッドセットはずしてやがる」
「無線をつけろって云え」
いらだった黒崎の声。
「おい,浦原!一護が無線つけろって!」
白崎が叫ぶ。
すると,ワイパーが動き続ける車の窓から油まみれの手袋に包まれた右手が現れ,白崎の視線の先,中指を立てた。
ため息を吐く白崎。
「あー,一護?なんか嫌だって。断られた」
クソ,と毒づく黒崎。
そのとき,程近い鐘楼の屋上に三人の男がいるのが目には入る。
銃を構えスコープで確認する黒崎。
手を振ってみるが,応答はない。
「シロ,尖塔に男が三人いる」
浦原は車を出て外へ。
ボンネットの隙間をライトで照らし,こじ開ける。
「シロ。あの馬鹿,何やってんだ」
「知らね。オイルのチェックじゃね」
浦原は動き続けるワイパーを気にしていた。
エンジンを切っているのに動き続けるワイパー。
ワイヤを引き抜くとワイパーが止まった。
バッテリが生きている。ということは,だ。起爆装置が繋がっているとしたら――。
尖塔を注視する黒崎。
三人の男のうちひとりがゆっくりと手を振った。
その視線の先にはビデオカメラを持った男がいる。
「シロ,尖塔の男がビデオカメラの男に合図した」
「やばいな」
爆発の瞬間を捉えてインターネットにでも流すつもりか。
「前へ行け」
「諒解」
走り出す白崎。位置につくが,浦原が見えない。
「一護,浦原が見えない」
「もっと前へ!」
再び走り,漸く浦原が見える位置へ。
「おい,行くぞ!」
叫ぶが浦原は応じない。
助手席のダッシュボードの下に起爆装置を見つけたのだ。
ライトで照らし,むき出しの電線に指で触れ電気が通ってないことを確認。
素手で起爆装置を引き千切ると,路上に放った。
「終わりました」
浦原は車から出ると路上に放り投げたヘッドセットを拾い上げマイクに向かい告げた。
合図を受けて立ち上がる白崎。
漸く撤収となった。
浦原は片付けもそこそこに一人車に乗り込むなり煙草を咥え火を点した。
「あーおもしろかった」
口の端を歪めるように笑いながら起爆装置を手にとってしげしげと眺める。
「おい,浦原」
片づけを終え戻ってきた黒崎が浦原を睨みつけた。
「はい?」
顔を向けた浦原にいきなり拳が飛んできた。
咄嗟に顔を背けたものの,シートのヘッドレストに阻まれてほとんど勢いを殺すことなく口の端を強かに殴りつけられる。
黒崎の後から戻ってきた白崎は,それを見ると,「あちゃー」という風に片手で顔を覆った。
「二度と無線を切るな」
浦原は応えなかった。
色のない眼で黒崎を見つめると,殴られた顎を擦り落としてしまった煙草を拾い上げ,再び口に咥えた。
2012.08.15