001.繋いだ手の、





ii





「だぁッ!また逃げられたッ!」


ガンッ!と土煙を上げながら地面を蹴りつけ,一護が吠えた。
浦原と二人,サンマウロ北にある洞窟に篭ってかれこれ四時間が経過した。
倒したメタルブラザーズは三対。
決して効率がよいとは云えない。


理由はわかっている。
自分が欲を掻き過ぎているのだ。


剣を手にぶら下げたまま,ごつごつとした天井を仰いでちくしょう,と唸る。


「んー,やっぱり一人だと無理がありますよねぇ。3ターンまでは居てくれるけど,その後は流石に逃げちゃうもんなァ」


ぱんぱん,と法衣の裾についた埃を叩きながら歩み寄る浦原に一護は返す言葉もなかった。


「イチかバチかでテンションアップして会心の一撃狙ってみるとか」
「3ターンだと漸く20かそこらだぞ」
「……ちょっとキツイっスかねぇ」


ぽりぽり,と頬を指先で掻きながら云う浦原に,一護は言葉もなく太い息を吐く。
レベルはようやく18まで上がった。
目標は25。できることなら30くらいまで,と思ってたがこう逃げられてばかりでは果てしなく遠い。


「ちょっと休憩しときます?」
「いや…時間勿体ねぇし」
「無理は禁も――」


言いかけた言葉を飲み込み,浦原が舌を鳴らした。
何?と視線をめぐらせた一護も数秒遅れでその気配に気付いた。


敵だ。数は,4。
しまった,と後悔しても遅い。
とっくに逃げ場は塞がれ,ぐるりと取り囲まれるように対峙した。


敵は全て祈祷師。
一護のもっとも苦手とする敵だ。
ザキを四発喰らえば確実にトバされる。
現在パーティには一護ひとりが登録されているため,所持金も半分持って行かれ,そんなことになったら平子と白崎に合わせる顔がない。


億すな。逃げるな。
奥歯をギリ,と噛み締めて「浦原さん,後ろ下がっててくれるか」低く軋るような声でそう告げた。


「ん,でも」
「危ねぇから」


防御力を上げる補助呪文を唱える小さな声を背中で聞いた。
途端淡い緑色の光が一護の身体を包み込む。


「サンキュ」


囁くように告げて,一護は地を蹴った。


1ターン,2ターン。
漸く一人目を倒した。
3ターンめははずして,代わりにこちらが傷を負う。
HPは残り73。
まだいける。


4ターン目に会心の一撃が決まって二人目を倒した。
5ターン目は残り少ないMPを使って二撃必殺の構えを取る。
しかしこれが一撃しか決まらず,三人目から逆に会心の一撃を喰らった。
四人目は守備力を上げてターン終了。
6ターン目。HPの残りが20を切っている。
そろそろ決めないとヤバイ。


自分が倒れたらコイツらは迷わず浦原さんを襲うだろう。
それだけはなんとしても避けたかった。


このパーティに於いて唯一の回復役だから,というだけではない。
頼りない自分にわざわざついてきてくれた。
頑張って,と励ましてくれた。
何回逃げられても呆れずに,傷を治し疲れを癒してくれた。
その浦原さんに怪我なんてさせるわけにはいかない――。


決意がどれだけ硬くとも,実力が足りなければ思いは叶わない。
一護が振るった刃は間一髪のところで避けられ,間近で見据えた祈祷師は口の端を引き上げ醜悪な笑みを浮かべた。


拙い――。
一護は返す剣を振り被り直したが,そのときには既に攻撃を掻い潜った祈祷師が呪文の詠唱を始めていた。


そのときだった。


背後から空気を切り裂く斬撃。
稲妻を纏ったそれは祈祷師二人をあっという間に横薙ぎに吹き飛ばした。


スキル88で習得できる大技。
一護も使えるには使えるがMPが頼りないため一度の戦闘では二度揮うのが精一杯という代物。


呆然とした頭に遅れて「今のは,誰が」と疑問が浮かぶ。
身体は痺れたように動けない。
ざ,と地を踏みしめる足音。


今ここには自分と浦原さんしかいないはずなのに。
他のパーティが紛れ込んでいた?
いや,そんな気配はなかった――。


「大丈夫でした?」


チィン,と剣を鞘に収める馴染んだ音を立てながらひょい,と一護の顔を覗きこんだのは,背中に守っていたはずの浦原だった。


「いま,の,浦原さんが…?」
「久々だったんでヘマしたらどうしようかと思ったんスけど,でも巧く行きましたねぇ」


ふふふふ,と笑う浦原の声に,一護はがくり,膝が崩れ落ちるのを感じた。


「っと危ない」


浦原の声がして,身体を支えられるのがわかる。
でももう何も云うことができなかった。


ありがとう,も,どうして,も。
そのまま一護は意識を失った。












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