in fragments
002
§・§・§
力の入らない身体を引き摺るようにバスルームを出て,洗面台の前に放り出してあったバスローブを羽織る。
草臥れたバスローブはサイズが大きいせいで手の中ほどまでが袖に埋もれてしまい,紐を結ぶ邪魔をする。
億劫で仕方なかったが,足許から骨を伝いひたひたと這い上がってくる寒気に負けて緩慢な仕草でやり遂げた。
ドアを閉める余力もなく,壁に手をついて身体を支えながら洗面所を出て居間のドアの横,一方の蓋だけ無理矢理引き剥がされたダンボール箱からミネラル・ウォータのボトルを掴んで寝室へ向かった。
膝から崩れ落ちるようにベッドに腰を下ろし,残る僅かな体力を引き絞るようにボトルの蓋を開ける。
飲み干した水は炎症を起こしている喉に酷く滲みた。
一護はボトルを持ったまま膝に肘をついて身体を支えると,ベッドサイドのナイトテーブルのランプを点した。
琥珀色のシェードを透かしてやわらかな光が部屋を照らし出す。
ナイトテーブルの上に散った何枚もの紙片を掻き分け,漸く見つけた小さな薄紅色の紙包みを手の中に握りこむと,一護は疲れきった息を吐いた。
水のボトルを足許に置き,震える指で紙包みを開く。
中には白い粉末が一匙。それを仰向いた口の中へ落とし込むと,ボトルの水を煽って流し込み,そのままベッドへと倒れこんだ。
辛うじて残る理性で水のボトルを倒さないようにベッドの下へ置くと,毛布を引き上げる余力も尽きてしまった。
それでも全身に広がる悪寒と目を焼くランプの光から逃れる為,毛布の端を掴み寝返りを打つ要領で身体に巻きつける。
吐き気と寒気。
節々から全身の骨を蝕むように拡がっていく痛み。
一護は幼児のように身体を丸め蹲った。そして半ば意識を投げ捨てるように眠りへと落ちていく。
意識を飛ばす刹那,自分のものでない気配を感じた気がした。
――アイツ,帰ってきたのか。
浴室の中で思い出したのと同じ説教臭い嫌味ったらしい真冬の月のような淡い色の髪に深い翠色の瞳を持つ男の姿。
着込んでいるバスローブが気になった。
なぜならそれは,他ならないその男のものだったから。
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