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PRESENTED BY YUNKEL ROYAL
真白い封筒には、宛名も差出人の名も無かった。
文字通り、きっちりと封のされた何の変哲もない白い封筒。
帰宅後、ドアの内側に取り付けられている郵便受けに入っていたそれを取り上げた一護は、眼精疲労からくる微かな頭痛の兆候に舌を打ちながら、その封筒を電灯の明かりに翳す。
表書きも何もないところを見ると、誰かが直にこれを一護のアパート玄関に投函していったのだろう。
薄っぺらな封筒には、別段特徴的な部分は見あたらない。指で辿った感触から、中に入っているのはどうやら普通の紙らしく、剃刀や針のようなモノは封入されて無さそうだった。
一護は白い封筒の上の辺りを慎重に鋏で切り取ると、中に入っていた紙切れを取り出した。
入っていたのは、一枚のチケット。
訝しむ一護が確認したそれは、航空券だった。
印字されたフライト時刻は明日の夕刻。
そしてその行き先は――。
「………マジ、かよ…」
呟いた自分の声が、何処か遠くから聞こえた気がした。
そして呟いた自身の声に対して、今更何を、と自嘲する自分がいた。
何時かこの日が来ることは解ってただはずだ、来るべき時が来だけだろ、と囁く声が一護の内側から響く。
封筒もチケットも全部このまま鑑識に廻すべきだろう、と思考するのと同時に、抗える筈がないじゃないか、という思いが急激に膨らむ。
抵抗と、諦観。
相反する思いが綯い交ぜになって、一護はチケットを手にしたままダイニングキッチンを通り過ぎ、二間つづきの奥の部屋にあるベッドに倒れ込んだ。
固く眼を閉じる。
こんな時、眠れてしまえたならどんなに良いだろう。
何も考えずに眠ってしまえたなら。
『羊を数えなくても、眠れる方法を教えてあげる』
耳の奥で、囁くように谺した声は、一護を眠りから遠ざける。
一護を縛り続ける記憶の断片が、強襲的な雨に洗われるように鮮やかさを取り戻してゆく。
時間が全てを解決するというのは、嘘だ。
少なくとも時間の中に囚われている人間、即ち生者に対してはその解決法は詭辯に等しい。
通り過ぎた筈の過去が、ある日唐突にまるで時限式のようなタイミングで作動して、夏の夕立のように襲いかかってくる。
運命を己の意志で選択し決することも勿論あるが、否応なく運命の渦に捲かれてその意志を曲げられる事の方が多いのだ。
まるで運命そのものが、意思を持って悪戯に気まぐれに翻した袂で人を翻弄するかのように。
一護は手元の航空券を凝視し、かたく唇を退き結んだ。
きっと、今夜も眠りは訪れない。
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