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the rhumb line




PRESENTED BY RITSU SAIJO

トン・トン・トン・トトン。
スピーカから流れてくる旋律に合わせてステアリングを指で弾く。
大振りなサングラスの下,フロントガラスの向こうを見つめる瞳から感情という名の色が抜け落ちているのがわかる。
――仕方ねぇだろ。機嫌も悪くなるっつんだ。

小さく鼻歌を口ずさみながら白崎は半時間ほど前のことを思い出していた。
簡単な仕事のはずだった。事実簡単だった。なんであんなことを連中が躊躇うのか白崎にはわからない。
――手を汚すのが嫌だ?だったら辞めちまえ。
半端な覚悟で携わる者のせいで,自分が何よりも大切に思う存在に瑕がつくようなことがあれば,白崎は懐に呑んだ拳銃の銃口をソイツに向け迷わず引き金を引くだろう。

でも,とりあえずは。
ステアリングから左手を離し,襟元のボタンを二つ開ける。
首の周囲にぐるりと巡らせた荊模様のタトゥを撫でるように触れるとごわつくシャツの生地に指が触れ,ため息が漏れた。
損害はシャツ一枚。
これくらいで済んだのならばまだ安い方だ。
自分が手を出したことは遅かれ早かれあの人には知れるだろう。
それでも,きっと笑ってくれる。
そのことがわかるから。

瞼の裏に浮かぶオレンジ色に,鼻歌が止まった。
白崎はルームミラーにちらりと目を遣り,車線変更すべくウィンカを出した。
ミラーに写る自分の姿。
黒地に銀の糸で刺繍された小花が散るシャツの,右の鎖骨から下の辺りから小花が消えている。
シャツを染めるどす黒い色は,返り血だった。

自宅に寄ってシャワーを浴び,さっきまで着ていたのと色違いのシャツに着替えた。
淡い灰色の地に黒に近い紺色の糸で無数の小花が刺繍されたシャツの釦を上から二つ残して嵌めながら白崎は鏡を覗き込んだ。
首輪,と揶揄されているタトゥを見つめ,口の端を引き上げる。
連中は白崎の耳に届いていないと思っているが,白崎はそんな風に嘲笑われていることを知っていた。
腹は立たない。
――だって,事実だしな。
くつり,喉を鳴らして笑い,左の耳朶を穿つピアスに触れてから鏡の前を離れた。










presented by Fulcrum


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