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Addicted

-- i bend the knee to you --





浦原商店に泊まった翌日,前夜からの余韻で甘く痺れた身体を朝からいいように弄ばれた一護は布団に伏せたまま枕に顎を預けて縁側で煙草を燻らせる浦原を睨みつけた。

「浦原ぁ」
「何?」

煙管を片手に振り返った浦原の満足げな顔に一護はくしゃりと顔を歪めると頭をがしがしと掻いた。

「何? 一護サン」

そんな顔,するなんて卑怯だ。云おうと思ってたことが喉の奥に落っこっちまったじゃねぇか。
他愛のない嫌味を封じ込められて一護は不貞腐れる。浦原はかたん,と音を立てて煙管の灰と火種を煙草盆に落とすとゆらり立ち上がって一護の横たわる布団までやってきた。

「そんな顔しないで?」
「どんな顔だよ」
「またしたくなる」
「……俺のこと殺す気か?」
「ヤリ殺すの? いいなあ。でもどうせならアタシも一緒がいいなぁ。心中」

長閑な口調ではあったが,そこに含まれる本気が一護の肌を粟立てた。
たまに浦原が恐くなる。その執着を求めて止まないくせに恐れて伸ばす手の行き場をなくす。

「あんま,おっかねぇこと云うなよな」
「オヤ,恐がらせちゃいましたかね」

くす,と笑って浦原は肩にかけた羽織をぱさりと落とすと俯せた一護にのしかかるように身体を重ねた。一護の腰までを覆うシーツ越しに浦原の脚が割り込まれ,裸の腹と胸が一護の背に触れる。
暖かい。
この温もりは好きなのに,愛しいと思うのに。

「いーちごサン」
「間延びした呼び方すんな」

好き。大好き。
笑みを孕んだ声で囁かれながら首筋に口付けが落とされる。

「やーめろってば」
「殺しませんよ」
「あ?」
「無理,させてるくせにって思うかもしれないけど,アタシは一護サンを傷つけたくない。嫌われるのはイヤっスもん」
「……浦原」
「だからもう今日はしません。まだ朝も早い。もう一寝入りしましょ?」

云うなり浦原は一護が纏うシーツの隙に自分も身体を滑り込ませその腹に腕を回し一護を抱き込んだ。

「浦原」
「はい?」
「さっきさ,縁側居ただろ?」
「えぇ」
「太陽,見た?」
「太陽? いい天気だなーって見ましたけど」
「黄色かった?」
「黄色?」

きょとんとした声で返された途端,一護は激しく後悔した。
やっぱ云うんじゃなかった。

「……やっぱいい」
「一護サン?」
「忘れろ。なんでもねぇ」
「太陽が黄色いとなんなんです?」
「突っ込むなって」
「別のもの突っ込まれたくなかったら答えて?」
「別の…ってオマエ」

ぎょっとして身体を強張らせた一護に浦原は追い打ちをかけるように下肢を押し付ける。
今はまだやわらかなそこが熱を持つとどうなるか。先ほどの浦原の言葉が洒落でなくなる。一護は観念した。

「笑うなよ?」
「……約束はできませんけど」
「……すぎると次の日,太陽が黄色く見えるんだって」
「何が過ぎると?」
「…………」
「一護サン?」
「ヤリすぎると!」

喚くように云ってばふ,と顔を勢い良く枕に押し付けた一護に,浦原は一瞬虚をつかれ,続いてくくくっと笑い出した。

「…ど,どこで仕入れたのそれ」
「るせ!笑うなって云っただろ!」
「だって,そんな…無理…」

笑みに声が震える浦原を一護の強烈な肘鉄が見舞う。右の脇腹に痛みを覚えて「イタッ!」と声を上げながらも浦原は笑うことをやめなかった。

「オマエなあ!」
「ゴメンナサイでも無理…」
「もういいッ!」

一護は云うなり浦原の腕を引きはがし布団の端までごろごろと転がった。
浦原は「あー苦しい」と云いながらなんとか笑いの発作を治めると離れてしまった一護に手を伸ばした。

「一護サンこっち来て?」
「嫌だ」
「もう笑いません」
「それだけ笑えば充分だろ」

一護の頑な声に浦原はふう,と息を吐くと自分から一護の背後にぴたりと寄り添った。

「自分から来ちゃった」
「暑い。うざい」
「あ,そんなこと云うんだ?」

肩に回された腕の先,指先が一護の顎を捉える。
僅かに上向かされながら与えられる口付けは熱のない悪戯のようなそれ。

「機嫌治して?」
「…………」
「こんな端っこで寝てたら風邪引くし,ね?」
「…………」

八度目のキスで一護は眉間の皺を解いた。
どうせ自分が叶うわけもない。
恐くされても酷くされてもしつこくされても,浦原を拒み切ることなんかできない。
それでも。一護は顎を捉える浦原の手を掴むと,その親指の付け根に歯を立てた。

「痛」

小さな声が浦原から上がるが一護はそれを無視してそこに唇を押し当てる。
覚えてろ。
そう念じながら。















一護の健やかな寝息を聞きながら,浦原は閉じていた瞼をそっと開いた。腕の中の温もりをそっと抱きしめなおし,その呼吸の規則正しい健やかなリズムに耳を澄まし,腕に伝わる鼓動に自分のそれを重ね合わせる。
生命の奇跡。
たくさんの生命を奪ってきた自分がそんなものに感謝をする日が来るなんて夢にも思わなかった。信じてもいない神に跪いて永遠を願い請うような日が来るなんて夢にも思わなかった。
残された時間なんて考えたくはない。ただ,この瞬間が永遠に引き伸ばされてしまえばいいと思う。愚かな,そう嘲笑う自分を指で作った拳銃で撃ち抜くような心地でそう思う。

「恐がらないで。お願いだから」

細い身体を抱く腕にそっと力を込めて祈るような心地で囁いた。返事はない。でもそれでいい。
浦原は柔らかな一護の髪にそっと鼻先を埋めて目を瞑った。





Fin
(2006.08.07)





Flying colors // Ritsu Saijo presents