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「一護サン,鰻来たみたいっスよ〜」

襖がからりと開き,浦原の飄軽な声がする。
一護はだるくなった身体を起こすことも出来ずに突っ伏したままの姿勢でそれを聞いた。

「一護サンたら,まだ寝てるんスか?冷めちゃいますってー」

腹立たしい。
誰が寝てるんだ誰が。つーかどこのどいつが俺をこんなにしやがったんだ。
一護は怒鳴りつけてやろうと口を開きかけたが,浦原の声に重なるようにして女将の「また後でお持ちしましょうか」というかすかな声を聞きとめて,無理矢理身体を引き起こした。

「今行くっ!」

脱がされた服は枕元と足元に散乱していた。
慌しくそれらを着込んで,枕元にあった水差しからごくりと喉を鳴らして水を飲むと,ぱしんと襖を開いて部屋へ戻った。

「よく眠れました?」

杯から酒を啜りながら意味深に浦原が云う。
一護は射殺す勢いでそれをにらみつけた。

「喉乾いたでしょ。ウーロン茶追加しておきましたよン」

杯を置くと浦原は傍らにあった壜を手に取り,袖を端折って一護に差し出した。
一護は不承不承伏せられた新しいコップを手に取り,それを受ける。
そして一息に飲み干すと,目の前に置かれた重箱の蓋を両手で取った。
ふわり,えもいわれぬいい匂いが鼻をくすぐる。
途端にぐう,と腹がなった。

「おやまあ」

浦原が笑うと,女将も微笑んだ。

「なにかございましたら遠慮なくお申し付けくださいませ」

あくまでも上品な会釈を残し,下がる。
一護は箸を手にするとぱしっと両手を合わせ「いただきます!」と声をかけた。

「メシアガレ」

浦原は白焼きを肴に再び酒を啜っている。
一護は重箱を手にそれを見ると「オマエは食わねえの?」と怪訝な顔をした。

「アタシはもうご馳走頂いちゃいましたから」

そういって口の端をぺろりと舐める。
その舌に先ほどまでの欲と熱の篭もった感触を思い出し,一護は思わず咳き込んだ。

げほげほと苦しげに咽る一護を眺めて浦原はくつくつ喉を鳴らして楽しげに笑う。

「ふ,ざけんなおま…!勿体ねえ!!」
「ふふふふふ。でも美味しいでしょ」
「……ッ!旨いけど。すっげえ旨いけど!」
「そりゃよかった」

頬っぺたに飯粒をつけて鰻を頬張る一護を,いい景色でも眺めるような目で浦原は見つめると,胸のうちで密かに「今日は帰せませんねぇ」と策に思いを巡らせた。
一護はそんな浦原の思いを知るわけもなくひたすら鰻に舌鼓を打っている。

窓の外でちりん,風鈴が鳴った。






Fin
(2008.07.24 再掲)






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