なんでもない言葉に泣かされて止まらなくなった嗚咽を誤魔化すみたいに毒づいた。
「オマエ,最悪」
「……そんな泣き腫らした目で云われたら,自分が極悪人になったような気持ちになる」
「極悪人だ。殺人犯より尚性質悪い」
掌の,手首に近い部分で涙を拭う。
だめだ,止まらない。
後から後から溢れてきて。
「ダメっスよ。そんなに乱暴に拭ったらますます瞼が腫れちゃう。ほら,こっち来て?」
手首を取られて引き寄せられた。
子どもみたいに膝の上に座らされて,きちんと畳んだちり紙で鼻までかまされた。
(「はい,ちーんして」って云われたときは殴り飛ばそうかと思ったけど,そうする前に必要に迫られた)
涙を拭うのはハンカチでも指でもなく,浦原の唇。
身体のどこより柔らかい皮膚が,擦ることなく吸い取り,まるで傷口に血止め草を当てるみたいに涙を止めていく。
目尻に,瞼に,眉間に,頬に,トドメとばかりに唇に。
手が,勝手に浦原の作務衣の腕のところを握り締める。
ふわりと抱きしめ背中に回された浦原の手に,まるで癇癪起こした子どもを宥めるみたいに「ぽんぽん」と叩かれて。
しわしわになった心が,少しずつ形を取り戻していく。
蘇生。
コイツによって殺されたと思っていた。それなのに,この手によって蘇生されている。
これはなんだ。
いったいなんだ。
惚れた弱味ってひとことだけじゃ,きっと済まされない。
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何云われたの,ねぇ?
(2006.01.12)