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「よぉ,俺の天使」


口許を歪めて,まるで嘲笑うような声音で一護は云った。
浦原は片方の眉をひょいと上げ,手にしたステッキの先で肩をとんとんと叩いた。


「…天使?」
「違うのかよ」
「アタシのどこが天使?」


トレードマークの珍妙な帽子に手をやり,目深に被り直すと鍔で視線を隠したまま浦原は首を傾げる。
口調は長閑そのものだったが,ゆらりと陽炎のような霊圧がその身を取り巻いている。


「アンタの,隊長姿の写真を見たことがあるんだ」
「……そりゃまた随分古いものを」
「つーか拝み倒して見せてもらったんだけど」


それで?
と尋ねる代わりに無言で先を促した。


「真っ白い羽織着たアンタは,ちょっと言葉にならないくらいに綺麗だった」
「……そんな直截な褒め言葉,もっと前に聞きたかったっスね」
「ばぁか。今だから云うんだろ?」
「…………」


そう,まるで天使みたいにきれいだったんだ。
飲み込んだ言葉に笑うみたいな息を吐いて一護は立ち上がると黒衣についた埃をぱんぱんと叩いて落とした。
視線を僅かに逸らし,しかし全身で自分を注視する男に向けて更に言葉を継ぐ。


「抜けよ,紅姫。そのために来たんだろ?」
「違う,と云ったら?」
「そんなわけねーよ。その霊圧,いくら俺が鈍くたって痛いくらいにわかる」


オマエ,俺のこと殺しに来たんだろ?
そう云い,一護は微笑を浮かべた。ふわりと気持ちが解けるような穏やかな微笑だった。


「浦原,知ってるか? 天使ってのは死神と同じなんだぜ。死を言祝ぐものじゃない。死を与えるもの。せいぜい服が黒か白かくらいの差でしかないんだ」
「一護サン…」
「抜けよ,紅姫」


手にした細身の刀をゆっくりと構える。
両手で上段に据え,息を整え霊圧を解き放った。
まばゆい金色の光が周囲の全てを捩じ伏せるように膨れ上がる。
浦原の帽子が吹き飛ばされ,月色の髪がふわりと舞い上がった。


「一つ,覚えていて」
「何を」
「キミの魂魄が地獄の極卒に捕らえられる寸前にアタシが攫います。その後はもう逃がさない」
「死んだら全部オマエにやる。その約束は忘れてねぇよ」
「消滅なんて許さない。キミはアタシのものだ」


一護の返事を待たずに浦原が仕込みになったステッキをすらりと抜いた。
細身の刀身が姿を現す。
気構えなく雑に構え,とびきり甘い声で名を呼んだ。


「起きろ,紅姫」


キィィィィィン
刀身が応えるように身を震わせ,白銀から朱金にその色を変えた。


「行くよ,紅姫」


告げるや否や浦原が飛んだ。
漆黒の刀身と朱金の刀身が,甲高い音を立てて打ち鳴らされる。
一護は全身の細胞を狂喜させて浦原を対峙していた。


自分が壊れいくのはなんとなくわかっていた。
自分の立つ足元がまるで砂となって零れ落ちていくような不安。
身のうちで禍々しく咆哮をあげる化け物みたいなもう一人の自分。
その声はぞっとするようなものなのにどこか悲しげで力づくでねじ伏せることはできなかった。
自己を保つということと他者を圧し続けるということ。
その両方に徐々に磨耗していった。
そうして自我を制御しきれなくなることをしばしば自覚するようになって,「終わり」が近いことを知った。


どうせ誰かの手にかかるなら。
それは浦原でなければ嫌だった。
自分に深く浸食し。身も世もない目に遭わせてくれたこの男でなければ。
皮膚を炎に舐められているような心地がする。
その感触に目を細め,口の端をにぃ,と引き上げた。


浦原,俺,オマエのことがすげぇ好きだ。


それは,初めてで,最後の告白だった。
言葉にならない,告白だった。











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与えるということ奪うということ永遠を繋ぎとめるということ。 (2005.12.12)