reset.












not sweet.
not delicious.


but, my heart says that it wants...










からからから,と背後で扉の開く音がする。
新着図書のリストをデータベースに入力していた黒崎一護は,キィを叩く手を一旦止めて,眼鏡のブリッジを押し上げてため息を吐いた。


「くーろさーきセーンセ」


予測を裏切らない声はできればというより今最も聞きたくないもので。


「司書室はガキの遊び場じゃねーんだ。気安く来んな」


振り返ることもせず,入力を再開する。
虚弱なカラダと裏腹に,威嚇や恫喝には年季が入っている。
普通の生徒だったら怯んでそのまま退出させるくらいわけない凄みがそこにはあったが,生憎声をかけてきたのは普通の生徒ではなかった。


ゴム底の上履きの踵を踏みつけているくせに足音ひとつ立てずに歩み寄ると黒崎の左手のすぐ横に図々しくも寄りかかる。
そしてあろうことか手を伸ばし,黒崎の頭をくしゃりと撫でた。


「……気安く入って来んなっつったのが聞こえなかったのか。浦原」


手を払いのけて睨みつける。
浦原はほんのり赤くなった手の甲にちゅ,と唇を押し付けて見せ,「気安くなんかないですし?」とひっそり笑って見せた。












浦原喜助。
黒崎が勤務する空座学園高等部の三年四組に在籍している。
無造作に伸ばした真冬の月のような淡い色の髪に下がり気味の目と薄い唇。
整った容姿とやわらかな声と一風変わった口調のせいもあって生徒の中でも浦原の人気は高いらしい。
立候補すれば生徒会長確実,と云われていたが「なんでアタシが?冗談じゃない」の一言で一蹴したというのは今を持って尚語り草となっている。


人当たりは決して悪くないがその一方で手段を選ばず自分の欲望を最優先する傍若無人な部分も持ち合わせている。
――というよりも黒崎からしてみたら傍若無人のクソガキ以外の何者でもない。


出席率も授業態度も著しく悪かったがその成績は全国模試で常に上位をキープしているため,進学率と来年の募集人数のことしかない教員連中は注意するどころかこぞって口を噤み,あれこれと阿る始末。
そんな風にちやほやとすり寄ってくる教員たちには鼻も引っ掛けない浦原だったが,なぜか黒埼にはよく懐いていた。


懐いていたというよりも――。


「ねぇ,黒崎センセ?」


云いながら身体を屈めて黒崎のこめかみに口付ける。
やわらかなものが眼鏡のつるのほんの少し上に触れ,不意打ちを喰らった黒崎は思わず身を引いた。


「な…にすんだこの馬鹿ッ!」
「だーってちっともこっち向いてくれないんスもん」


せっかく愛しの黒崎センセの顔見に来たのに。
触れられたこめかみを押さえ,椅子ごとざざざっと後ずさった黒崎に,浦原はにこりと笑って「やっとこっち向いてくれた」と嬉しそうに云った。












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