SWINGS AND ROUNDABOUTS
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ぷるるるる,ぷるるるる。
素っ気無く続く呼出音にじっと耳を傾ける。
師走も下旬に差し掛かり,屋根の下とは云え屋外は空気が触れる端から凍りつきそうに風がつめたい。
携帯電話を肩と耳とで挟んで,上着のポケットを探って煙草を探す。
残りは三本。これが尽きるまでに帰れるといいんだけど。
ドアの向こうの喧騒を思ってため息を吐く。
呼出音は七回目。
十回鳴ったら切る,そう決めていた。じゃないと永遠に待ってしまうから。
九回目が鳴り終わると同時に,ぷつ,と呼出音が途切れた。
火を点したばかりの煙草を吸い付けるのも忘れて,愛しい名を口にする。
「…一護サン?」
一瞬の間。
「悪い。風呂入ってたんだ」
声が小さいのは多分時間が遅いから。
隣の部屋で眠る双子の妹たちに聞こえないよう気遣っているせいだ。
二日ぶりに聞く恋人に声に,浦原は目を閉じて聞き入った。
「髪,ちゃんと拭いた?」
「あ,いや」
「風邪,引かないようにね。今日は随分と冷えるから」
云って笑うように吐き出した息がふわりと白く浮かび上がるのを伏せた瞼の下から見る。
電話の向こう,こくん,と頷く気配がして,小さな咳払い。そして「あぁ」と低い声が応えた。
多分,頷いてからそれでは自分には聞こえないことに気づいて,言い直してくれた。
そのことがわかるから,どうしようもなく笑み崩れてしまう。
浦原はタイル張りの冷たい壁に凭れて,小さな機械から聞こえてくる声にじっと耳を澄ませた。
「…まだ,仕事してんのか」
「仕事って云うか,忘年会。みんな飲んだくれて,アタシだけが素面っていう」
「車?」
「違う。楽しくないから」
「……仕事,なんだろ?」
「仕事じゃないっスよ。だってお金生まないもの」
苦笑しながら云うと,電話の向こうで一護も小さく笑った。
「明日,どうします?」
明日はクリスマス前の祭日だった。
クリスマス・イヴとクリスマスはわがままなクライアントにつきあって飲みに出なければならない。
業界が業界だけにメンツのかかった忘年会も新年会もそれはもう豪勢に行われる。
そこに身内として呼ばれることが即ち浦原への評価にも繋がっているわけで,いくら可愛い恋人と過ごしたいからと云って不参加を決め込めないことが正直腹立たしかった。
しかし一護は。
「仕事なんだろ?」
行きたくない,と駄々を捏ねる浦原を,まるで学校に行きたがらないコドモをあやすような表情で宥めて「俺も遊子がケーキ買って来いっていうし,25日はクラスのダチんとこに呼ばれてるし。別に気にしなくていいぞ」とあっさり引き下がった。
もっと我侭云ってくれたらいいのに。
キミが行くなって云えば,どんなクライアントだって蹴り飛ばしてみせるのに。ごめんね。
そう云う浦原に一護は「別に俺,キリスト教徒じゃねえし」と云い,それから目を伏せると「それに,23日は一緒に居られんだろ?」と耳を赤くしながら小さな声で云った。
愛しさに胸を塞がれる心地を覚えながら,浦原は腕を伸ばして一護を抱きしめた。
このままずっとここに閉じ込めておけたらいいのに。
この子の世界を,自分の腕の中だけにしてしまえたらいいのに。
途方もなく膨れ上がる欲望は,「愛してる」という綺麗な言葉の下でどろどろと凝る汚い欲が渦巻いている。
なるべく表面には出さないように気をつけているけれども,それでも不意に抑えきれなくなってその都度嫌われるんじゃないかと怯える自分がいる。
どうしてこんなに。
呆れるようにそう思いつつも,「もっとだ。全然足りない」と更に欲する自分をどうすることもできない。
「…浦原?」
電話の向こうから聞こえてくる,声。
自分の名を呼ぶ,愛しい愛しい声を鼓膜に刻み込むように耳を済ませながら浦原は口を開いた。
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