Dreieck zwei





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「アタシ,アルバイトしようと思って」

浦原がそう言い出したのは,五月半ばのことだった。
時刻はちょうど夕食時。テーブルには白崎が腕を奮ったぶた肉と茄子とピーマンの甘味噌炒めにほうれん草と豆もやしのナムル,中華風のコーンスープなどが並んでいた。
白崎も黒崎も,視線を浦原に向けたものの,それぞれ口の中にものを含んでいるせいか何も云わない。
しかし視線に尋ねられたような気がして,浦原は「えへ」とはにかむように肩を竦めて言葉を継いだ。

「その,欲しいものがあって」
「先は?」

つめたい烏龍茶を飲みながら黒崎が問う。

「履歴書はいちおう提出済みで,夕方採用の連絡を貰いました」
「へぇ。まぁ無理はすんなよ」
「ハイ」

お前は?なんかねえの?と黒崎の目が白崎を見る。
しかし白崎は箸で摘んだナムルを口の中に放り込み,何も云わない。
浦原の眉がハの字に下がり,心なしかしょんぼりと俯くと,テーブルの下で黒崎が白崎の脚を蹴りつけた。

「ってえ!」
「え?」

白崎の悲鳴に浦原がきょとん,とした顔をする。
二人の顔を交互に眺めて,黒崎だけが口の端を引き上げた。

「オイ」

テーブルの上に屈み込むようにして蹴られた箇所を擦りながら白崎が浦原を見る。

「ハイ?」
「メシは」
「ごはん?」
「バイト先で食ってくんのかって聞いてんだよボケ」

喉奥で唸るような低い声はまるで威嚇するような響きを帯びていたが,聞いた浦原は嬉しそうに頬を綻ばせて「いいえ」と首を横に振った。

「シフトは四時半から十時までで,片付けて帰ってくるのは十時半くらいになると思います」

ふん,と鼻を鳴らした白崎に代わって黒崎が問いを重ねる。

「曜日は?」
「仕事に慣れるまでは基本的に毎日出ようかなって。月曜日はお店が休みなんでその日だけはお休みになります」
「土日も出るのか」
「ハイ。週末はティ・タイムで忙しくなる前ってことで二時にお店に入って上がりはやっぱり十時っス」
「……飲食?店どこだよ」
「カフェなんスけど…,あの,お店の名前はナイショにさせてください」
「なんでまた」

黒崎が怪訝な声で問うと,黙り込んでいた白崎が口を挟んだ。

「どーせアレだろ。ヘマばっかこいてっとこ見られるのが小っ恥ずかしいとかだろ」
「あはははは。白崎サン鋭い。なんていってもアルバイトなんて初めてだから」
「メシ,待たねぇからな」
「あ,ハイ。それは」

頷く浦原に,ちらりと目を向けた白崎はそのまま視線をはずすと「クビになりやがれ」と毒づいた。

「相棒が隣にいねぇと寂しいんだと」

揶揄するように笑みを孕んだ声で云う黒崎に「え,ほんとっスか!?」と嬉しそうに目を輝かせる浦原。白崎が「ちょ,違ぇし!そんなことこれっぱかしも思ってねえっつの!」と喚くと,テーブルがわっと賑やいだ。