「ずいぶん高いな…」
額に乗せていたらしい手拭いも温くなってシーツの上に落ちてしまっている。
浅い呼吸を継ぎながら時折苦しそうに表情を歪める良守の頬にゆっくりと触れた。
汗の滲んだ熱い肌を包むように手を当てるとその間だけ表情が緩む。
掌に擦り寄るような弟の仕種は可愛かったけれど、それを悠長に楽しんでいられるような状況でもなく、正守はそっと良守から肌を離して腰を上げた。
「待ってろ」
汗で濡れた髪をひと掬いしてから部屋を出ると、台所で水差しや氷水を用意してまた戻ってきた。
寝乱れた上掛けを直してやって用を成さなくなっていた手拭いを拾い上げ氷水に浸す。
肌に浮いた汗を丁寧に拭って、砕いた氷を適当な布袋に詰めて作った氷嚢を額に乗せてやった。
呼吸が落ち着くようにと髪を撫でてあやしていた正守の指が、ふと記憶の端に触れた副長の言葉を思い出して止まった。
そういえばいつだったか熱を出した夜行の子供の看病を刃鳥がしているのを覗き込んだことがあったが、そのとき彼女は子供の額だけでなく首筋や腋下にも氷嚢を当てていた。なぜそんなことをしているのかと尋ねると、発熱にはリンパ腺を冷やしたほうが早く下がるのだとそのときの彼女が言っていたのを思い出し、氷水に晒した手拭いを同じように首筋に当ててやった。
熱を孕んだ肌はすぐに手拭いを温くしてしまったが、何度かそれを繰り返すうち肌が冷やされて幾分楽になったのか良守の呼吸がふっと穏やかになった。
「気持ちいいか?」
髪を梳いて顰めた声で語りかける。
「お前、ちっちゃいころはよくこうやって熱出してたよなぁ。そのたんびに俺がこんなふうに世話してさ」
独り言のように落とされたそれは苦笑を滲ませていた。
「大変だったんだぞ。お前は熱ですぐぐずるし。真夜中だから泣き出されちゃ他の家族の迷惑になるだろ?なんとか泣かないで眠ってくれるよう必死であやしたの憶えてるよ」
ひとりで寝かせておいても大丈夫だろうと思っていても、つい気になって部屋に様子を見に行くとなんだかんだと離れづらくなってしまい、結局朝まで傍にいるというパターンがほとんどだった。
「ま、今は泣き出されないだけマシかな」
手拭いを何度も水に晒すせいで冷たくなってしまった掌を良守の頬に当ててやる。
心地良さそうに緩んだ表情がそのときふるりと瞼を震わせた。
「……ん、…」
「ああ、すまない。起こしたみたいだな」
ぼんやり天井を映していた黒い眼が声のするほうへと流れてきた。
「………あ、に…き…?」
「そうだよ」
「なん…で……?え…?ゆ、め……?」
「こらこら現実だっての。ほら、ちゃんと本物の兄ちゃんだろ?」
毛布の下から良守の手を取ってそれを自身の頬へと宛てがう。今まで自分が弟にそうしていたように。
「な?」
「…………」
熱い指先が頬を滑ってたどたどしく輪郭をなぞる。
拙い指の動くまま好きにさせていたが、顎を掠めた指先がそのまま重力に引かれてずるりと畳の上に落ちた。
寸でのところで掬い上げたがそのときにはもう良守は苦しげに呼吸を上擦らせていて。
「良守、大丈夫か?」
「………あつい……」
それだけ言うのが精一杯だったようで、またすぐに瞳は閉じられてしまったが、浅く唇が「みず」と動いた。
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